河野文

2021年3月20日2 分

タネノオト#82 (ステージ1・終)

最終更新: 2021年5月27日

八重桜一重桜の花のえん

長唄・賎機帯 1828(文政11)

謡曲「隅田川」と「桜川」をミックスした内容です。本名題は「八重霞賎機帯」

わが子「梅若」が人買いにさらわれてメンタルが崩壊してしまった母親。梅若の行方をたずねるうち、隅田川の渡し場にいる船頭と出会います。「川面の桜の花びらを網でキャッチできたら子供の居場所を教えてやる」と上から目線で母親をからかい、子供に会いたい母親は一生懸命に花をすくいます。その姿を見た船頭、ついには気の毒がってなぐさめ、やめさせようとします。しかし母親、今度は「鞨鼓」をつけて踊り狂うという内容です。

「犯罪」「いじめ・差別」などOUTな内容を含んでいながら、全体を通して花盛りの隅田川の景色を綺麗にうたいあげています。元々「一中節」で作られる予定が祭りの踊り屋台の雰囲気に合わなかったため「長唄」で作られました。今回の箇所を含め随所に「一中節」の手が使われています。

今回の箇所は、長唄によく出てくる掛け言葉にラップ調で韻を踏みまくったりダジャレ連発の「○○尽くし」。みんな大好き「さくら尽くし」が登場します。「よくわかる長唄4」(中村篤彦・著)の力をお借りして賎機帯に登場する「さくら」をお浚いしておきます。

樺桜(かばざくら)→かなり希少なサクラの品種。

糸桜(いとざくら)→サクラの品種、枝垂桜の別名、枝がやわらかく枝垂れるサクラの総称

児桜(ちござくら)→可愛い子供を桜にたとえる。

八重桜(やえざくら)→八重咲きサクラの総称。花びらが10枚~5.60枚の桜(諸説あり)。重い想いのたとえ。

一重桜(ひとえざくら)→花びら5枚の普通の桜。老木になると3.4枚になることもありそれも含む。

長唄プレーヤーにはこの曲を「NO1」にあげる人もあり、種類豊富な長唄の中でもゆったりゆっくりで品のある曲調が特別な気持ちにさせてくれるのかもしれません。

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