タネノオト #044
- 河野文
- 2020年6月7日
- 読了時間: 1分
君に近江と聞くさへ嬉ししめて音締めの三味線も
長唄・岸の柳 1873(明治6)

隅田川に注ぐ神田川の河口にある柳橋とそこから徒歩1分の両国橋の景色、界隈の料亭情緒を唄っています。菖蒲浴衣と同じ三代目杵屋正治郎の作曲です。
この辺りは今も船宿が何軒もあり、屋形船が運航されています。「君に近江~」は船宿・近江屋の娘が古着屋の息子と駆け落ちしたが失敗し、それを苦に今度は心中しようとしたところを助けられ、結局夫婦になった。それを祝った曲という説がひとつ。
鳴り物の「岸」田さんという人が「柳」橋の芸妓との恋が成就したことを祝って「岸の柳」とした説もあります。

奥村有敬著・長唄名曲30選(下)の中で、「岸の柳」から見えるものとして、明治維新後の大きな時代の転換期でも料亭文化が生き延び、日本人の美意識が壊されなかったと書かれています。当時の政治腐敗と世の中の混乱に対しても、よりこの曲が美しいと思えたのかもしれません。最後には、両国橋の賑やかさを「虹の懸橋」と唄い、未來への明るい希望と品の良さを感じます。
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