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タネノオト #078

獅子王の勢い


長唄・狂獅子 1764(明和年間)



三味線の絃を、太いほうから

「一の糸」「二の糸」「三の糸」と3本。

「繭の糸」を撚って作られます。長唄「一の糸」1本を作るには蚕が生んだ「繭の糸」が約2000本必要です。義太夫三味線ともなれば約3000本以上だとか・・・お蚕さんも、糸職人さんも尊すぎます。現在はテトロン素材・ナイロン素材も普及しています。


糸を張った直後は元に戻ろうとする力が働くため、音が下がるという現象が起こります。

そんな時は「糸が伸びてない」「ちゃんと伸ばした?」「少し張り目で!(音が下がることを見越して音を少し高めに合わせておく)」という会話がなされることがあります。準備段階で糸を伸ばして調子を上げるという動作を繰り返しておけば、演奏中に音が下がるリスクを減らすこともできます。


また長唄曲目のうち、半数以上は曲中に調子が変わります。

1回2回は当たり前、中には4回5回と変更することもあります。


ここで【調子】について簡単にお浚いしておきましょう

※3本「シ」を基準とした場合、左から一の糸、二の糸、三の糸

※基本的な関係性として本調子①の1オクターブ上が③


《レギュラ-》    ①  ②  ③

●本調子(ほんちょうし) シ ・ミ ・シ 

●二上り(にあがり)   シ ・ファ# ・シ

●三下り(さんさがり)  シ ・ミ ・ラ


《イレギュラー》

●一下り(いちさがり)  ラ ・ミ ・シ 

●三メリ(さんめり)   シ ・ミ ・ファ# (六下りとも言う、三下りのダブル)

●変調子(へんちょうし) シ ・ファ# ・ラ (二上りと三下りのミックス)


演奏中、糸巻きを撒いたり緩めたりしながら、違和感なく、滞りなく演奏を続けるというのは大変なことです。とにかく「調子」「調子」「調子!!!」「調子合ってなかったら意味ないから!」と若い時分から指導されるのでした。


今回の「狂獅子」、14分の曲でありながら

二上り→一下り→二上り→変調子+→変調子→二上り

5回、変わります。そりゃもう大忙し・・ちゃんとお稽古していないと(あれっ!つぎ上げるんだっけか!下げるのか⁉ってかこの調子なに⁉⁉)みたいなことになります。


自分で「変」って言っちゃってる「変調子」。この曲ではもっと狂ってる「変調子プラス+」が登場します。曲の後半、二上りの三の糸をシからソ#に勢いよく下げて出来た調子・・・

●変調子プラス+  シ ・ファ# ・ソ# 

(二上りと三下り1.5倍のミックス←かえって分かりにくい⁉)

(流派によっては二の糸と同じファ#まで下げて、二上りと三メリのミックスにする場合あり)


そしてこの「変調子プラス+」から「変調子」に変えるのは、糸の性質を利用します。

※流派・奏者による


緩めた糸を張ると「元に戻る力」が働くため音が下がるというのは先述の通りで、逆を言えば、張っていた糸を緩めても「音を下げたのに音が上がっていく現象」が起こります。


「狂獅子」ではこの現象を利用し、変調子プラス→変調子までの約3.4分のうちにソ#からラに近いところまで自然に音を上げます。そして一定のところでラに合せます。途中、音が上がっていっている状況を理解し抑えるポジションで微調整していきます。しかもタテ三味線の状況に合せるのが原則ですので、ある種のギャンブル的要素もあります。

そこをクールにこなせたら・・・三味線の難しくもあり面白いところでもあります。



おまけ

長唄 一の糸を分解してみました


三の糸っぽいのが4本よってあった

その内の1本を解体してみよう









その1本も3.4本からできている















その1束をばらしてみた


これを見ると蚕さんのシルク2000本というのも納得です


糸が伸び切らず調子合わなかったら

こりゃバチ当たりですね(^_^;)



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