タネノオト #009
残る暑さを忘れてし
清元・雁金1881(明治14)
9月も残りわずか…先日秋分の日を迎えたものの、まだ汗ばむ日差しを感じるこの頃。
振り返れば暑かった夏の日々も、長梅雨も遠い日に思えますね。
今回ご紹介するのは『雁金』より、そんな気分を表した一節を。
明治に作られたこの作品は白浪物のひとつ『島衛月白浪(しまちどりつきのしらなみ)』の三幕目、神楽坂の官員、望月とお照との色模様に使った余所事浄瑠璃で「隣で語る浄瑠璃に、過ぎしその夜を思い出」との枕書きが残っています。
当時は明治の風俗を写した「散切物(ざんぎりもの)」として流行したそう。
また今でこそ浄瑠璃方・三味線方複数並んでの演奏が定式ですが、初演時はそれまで清元節でされなかった独吟という一人語りを四世清元延寿太夫が勤め、この演出も大変な評判だったとか。こうした効果的な演出、積極的に挑戦したいものですね。
本来蚊帳は夏の物ですが秋まで使うと「九月蚊帳」と呼ばれ、 四隅に雁の絵を書いたりその形に切り抜いた紙をつけ、蚊がいなくなるマジナイの風習があったとか。
今やなかなか使われない寝具ですが、浮世絵に描かれた細やかな蚊帳の描写は実に耽美なものです。
雁金を結びし蚊帳も昨日今日
残る暑さを忘れてし 肌に冷たき風立ちて
作詞 河竹黙阿弥による名文。皆さま、どうぞ夜風でお腹冷やさないようにね。