タネノオト #031
忘れてのけし三番叟
清元・ 種蒔三番叟 1812(文化9)
今日から3日前。日本の記憶公演「漆と三味線」の中止を決定しました。
ご迷惑をお掛けした関係者の方々、ご来場を予定してくださったお客様。
皆さまのお気持ちに応えられず申し訳のないことです。
書き尽くせない個人の思いは別の機会にお伝えするとして、まずは深くお詫び申し上げます。
日々刻々と状況が変わる中、自らがくだした判断の是非と共に、音楽(広く言うと歌舞音曲)の存在を自問自答する毎日です。
今でこそ娯楽の要素を強く持つようになった舞台芸術も、原始的には祝詞であり“ハレの日”の儀礼であっただろうと思います。
今回のタネノオトは原始的な要素を強く持った演目『種蒔三番叟』です。
タネマキ サンバソウ?
聞き覚えのある方、正解。すばらしい記憶力!
初期のタネノオトで紹介しました。
文字通り種を蒔いて繁栄を願った内容で、能・狂言に由来した演目です。
今までは上演する意味をぼんやり「ご祝儀曲だから」と思っていました。
人が危機的状況だと捉える時は健康への不安、生命の危機、断絶の危機なんですよね。
今も昔も変わりなく。
そこを乗り越える方法は突き詰めると細胞を、種をリレーしていくことです。
この度の一件でそうした当たり前だけれど生き物にとって大切なことを儀礼にして伝えることこそが人間らしさであり、演目の真意じゃないかと考え直しています。
そう思うと、今の人々はあまりに自然から遠くなってしまったし、日本は生命の危機を感じない世界が長らく続いたのだと思います。
なんだかマズローの欲求段階みたいになってきちゃったな。
世の中の公演が続々と中止になってしますがラジオというエンタメもあります。
リモートワークの休憩に、ご自宅でゆっくり過ごされるお供に音楽をお届けできたら幸いです。読者の皆さまの健康を祈って。