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タネノオト#073

喜左衛門は立ち出で お珍しや伊左衛門さま

清元・夕霧 1863文久3年


夕霧というタイトルよりも、こちらの方がピンとくるかもしれません。

『廓文章』とか『吉田屋』とか。

再開した南座の吉例顔見世興行をご覧になった方もいらっしゃるでしょうか。

2020年最後のタネは、上方和事の代表作より一節です。


ざっくり言うと大阪きってのボンボン息子 伊左衛門さんと、こちらも大阪一の絶世美女太夫 夕霧さんの恋仲のお話。

ボンボン伊左衛門は実家の店のお金を使い込んだが故に、親から勘当くらい貧乏の真っ最中。12月も年の瀬、夕霧が病気になったと聞いて、いてもたってもいられずお店へ来たところ、店主の喜左衛門と出会したシーンがこちら。


店主の喜左衛門が現れて
「珍しいー!超久々じゃないっすか、伊左衛門さま!」

といったところ。

ボン伊左衛門は貧乏すぎて着るものも紙製の着物(紙子という)。

どんだけ親のスネ齧ってたんだwというツッコミはともかく、年末に紙の服とかあり得んでしょう。しかも旧暦なので2021年だと2月11日頃。凍死覚悟。


物語は切ない設定で始まりますが、すっかり落ちぶれてしまった伊左衛門を店中へあげてあげる喜左衛門が実にハートフルですし、最後は伊左衛門の実家が許してくれてハッピーエンドでお正月をお迎え♡というストーリーは、世知辛い令和の世の中をほっこりさせてくれます。

さて前回、2020年最後の長唄タネノオトのテーマは「別れ」でした。

この1年を振り返って思うのです。

生きていると様々な形での別れがあるけれど、「出会った瞬間」と「いつか訪れる別れ」はセットであると。

これを書いている私もいつか死ぬし、読んでいるあなたもいつか死ぬ訳です。例外なく。


有限であるからこそ出会えることを喜び、誰とどう過ごすかを一層考えるようになった気がします。

コロナが最も与えてくれたモノは、こうして考え取捨選択する時間でした。

今年もタネノオトにお付き合いいただき有難うございました。

2021年、皆さまに実りある新たな出会いが訪れますように。

タネノオトも新しい演目や歌詞との出会いをお届けできるよう、2021年さらに種を蒔いて参ります。

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